色食同源
- DATE : 2012.04.01
- Cat : 京都どーすか?
先日、宮本輝氏の『三十光年の星たち』という小説を読んだ。その中に、岡吉という草木染めの工房が登場するのだが、これは「染司よしおか」として、京都に実在する。かつて、新門前にあるお店には伺ったことはあったが、伏見の工房の存在は知らなかった。その数日後、知人の知人が自身の作品撮影をうちのお店でやりたいとのことで受けてみたところ、現れたのは、なんと「染司よしおか」6代目(予定)・吉岡更紗さん(キッラーン!初めまして、こないだ小説で読みました!)。ということで、いつものごとく数日後には、伏見・観月橋にある吉岡さんの工房へお話を伺いに。
この日は、和紙を紅花で染める作業中。赤く染めた和紙は、東大寺二月堂の修二会(しゅにえ、通称お水取り)で、堂内の須弥壇(しゅみだん)を飾る三名椿の一つ、糊こぼし椿(良弁椿)の造花に使われる、とのこと(ちなみにあとの2つは、伝香寺「ちり椿」、白毫寺「五色椿」)。この春を呼ぶといわれるお水取り、なんと1261年間、途切れず続いているらしい。そんなありがたいものを作るための紙は、染めるのに2カ月もかかるそう。A3サイズほどの紙を1枚染めるのに使う紅花は、1~1.3kg。しかも乾燥した花なので、量でいうと二度見、くらいな勢い。戦後、色紙で代用して作られていた造花を、見るに見かねた四代目が当時の染め方を再現して自身で染めた紙を寄進してから40年余り。
さて。今でこそ天然素材のみで染めるという「染司よしおか」の徹底ぶりも、高度経済成長期、世間が早く納めることを豊かさだと勘違いし出した時期には、薬品も使われたらしい。その結果、得られたこと。薬品を使うと微妙な分量の違いで、染めに使うアルカリ溶液がジャム状になってしまったり、染めてもムラになったりと失敗が多く、天然素材だと時間と手間はかかりながらも、素人がやったところで失敗がないそう。「排水の処理にしても、天然だったら必要なし。どっちもやってみたけど、失敗のない天然の方を選びます、結局はそっちの方が楽ですから。しかも時間をかけて染めたものの方が長持ちする。薬品は必ず副作用をもたらします」とは、その道40年の職人・福田さん(しかし私は薬飲みますけどね、すぐ効きますから、アハハー、と。素敵です!)。「薬品を使った色は見た目にもなんかイガっとしたものを感じる」とは6代目。染料に使う素材は、漢方薬でもあったりするらしい。目を潤し、口を通して体も健やかにしてくれるということか。今年は天然素材で時間と手間を掛けた手作り弁当での花見、どーすか?
Meets 287号より